教科書では教えてくれない日本の名作


教科書では教えてくれない日本の名作 (ソフトバンク新書)
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おすすめ平均
stars文学精解のハイテク指南書!!
stars一気に読んでしまいました^^
stars確かに授業では教えてくれない…
stars買いかな・・・。
stars『こころ』の解釈は秀逸

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時代背景を踏まえて解説してくれる。日本史と絡む文学史。おもしろい。とりあえず、エピローグから"あいかちゃん"のコメントを抜粋。

「太宰みたいに浮気をされたり、心中しようって誘われたりするのはいやだし、漱石は気むずかしくてかんしゃく持ちだし、芥川は何か暗そう、川端はロリコン趣味っぽいし、三島だけは絶対にだめ。もし結婚したら、一緒に切腹させられちゃう。谷崎なんか楽しそうだけど、ちょっと脂ぎっている感じがするし、よくない遊びを教えられそうで怖い」
「太宰を恋人にするのはどう?」
「そうねえ。芥川は頭が良くて役に立ちそうだからボーイフレンド、あと谷崎も友達にしておこうかな。グルメでいろいろおいしいところに食べに連れてってくれそうだもの。そして、太宰から心中しようって言われたら、さっさと太宰と別れちゃう」
(p.269)

memo

phrases

私の眼は彼の室の中を一目見るや否や、あたかも硝子で作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立ちに立ち竦みました。それが疾風のごとく私を通過したあとで、私はまたああ失策ったと思いました。もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄く照らしました。そうして私はがたがた震えだしたのです。
『こころ』

(p.51)

私は今日に至るまですでに二、三度運命の導いて行く最も楽な方向へ進もうとした事があります。しかし私はいつでも妻に心を惹かされました。そうしてその妻を一緒に連れて行く勇気は無論ないのです。妻にすべてを打ち明ける事のできないくらいな私ですから、自分の運命の犠牲として、妻の天寿を奪うなどという手荒な所作は、考えてさえ恐ろしかったのです。私に私の宿命がある通り、妻には妻の廻り合せがあります、二人を一束にして火にくべるのは、無理という点から見ても、痛ましい極端としか私には思えませんでした。
『こころ』

(p.66)

「軍旗喪失*2」以来、乃木は友人が「乃木はまるで自分から死に場所を求めて戦争をしているみたいだ」と言ったほど、異常な行動が続く。
(p.71)

当時、乃木将軍の殉死は新聞にも大々的に報道され、大変な騒ぎだった。外国の新聞には「乃木将軍、発狂する」との見出しが躍った。外国の記者には殉死ということがどうしても理解できなかったらしい。
(p.73)

一つは、「こころ」という作品は、「不可思議な私」、つまり人の心の不可思議さをそっくりそのまま描こうとしたこと。
そして、もう一つは「私」の自殺が理解できるか否かは、時勢の推移によるものだということ。だから、「明治の精神」といった不可解な言葉を、漱石は敢えて使ったに違いない。
このことを理解することで、漱石は時代を超え、初めて普遍的な存在となるに違いないんだ。
(p.76)

明治18年坪内逍遙*3が西洋から文学という種を持ち込んで、日本の土壌に植えたのが写実主義、でもその頃はまだ自我という概念すらなかったから、真の近代文学が誕生したとは言えなかった。
(p.92)

  • 大正時代は第一次世界大戦で特需。植民地の労働力おいしいです+そこで作らせた兵器の輸出。

ところが、こういった時代*4こそ、大資本家はうまく立ち回ったんだ。すでに第一次世界大戦で膨大な富を溜め込んでいた。その資本で、次々と中小企業を吸収して、巨大にふくれあがる。大地主は小作人から安い値段で土地を取り上げる。そういった大資本家が銀行を作り、資本そのものを独占しようとした。それが財閥なんだ。その結果、労働者は働いても働いても食べていけない状況が生み出される。
(p.186)

  • 資本主義の誕生。そりゃ共産主義マルクスに傾きもするわ。
    • こうした大衆の不満のはけ口として、大陸に進出し、戦争を始めた。のが、昭和初期。

学生は川端の分身みたいなものかも知れないね。そして、歪んだ孤児根性が、踊子とのやりとりで次第に素直でまっすぐに物事を受け入れることができるようになっていく。そういった意味では、恋愛小説や青春小説というより、むしろ魂の救済を描いた作品と言えるかも知れない。
(p.192)

当時、共産党活動は非合法で、見つかれば警察に検挙される。それは一族を裏切ることにもなる。その一方、太宰は自分こそ資本家の息子で、輝かしき革命家にはなれないと絶望していった。自分は家族をギロチンにかけることはできない。だが、友達を裏切ることも出来ない。自分に出来る唯一の誠実な生き方は、自分で自分を滅ぼすことだけだと。
(p.217)

もともと「女の決闘」はあるロシアの作家の作品だが、それを森鴎外が翻訳した。その鴎外の訳を太宰が読んで、その行間に自分の文章を書き込むことで、まったく別個の作品に仕上げてしまったという、実に不思議な作品なんだよ。
(p.220)

私は科学者ですから、不可解なもの、わからないものに惹かれるの。それを知り極めないと死んでしまうような心細さを覚えます。だから私はあなたに惹かれた。私には芸術がわからない。私には芸術家がわからない。何かあると思っていたの。あなたを愛していたんじゃないわ。私は今こそ芸術家というものを知りました。芸術家というものは弱い、てんでなっちゃいない大きな低能児ね。それだけのもの、つまり智能の未発達な、いくら年とっても、それ以上は発育しない不具者なのね。純粋とは白痴のことなの?無垢とは泣き虫のことなの?
『女の決闘』

(p.228)

太宰は生まれながらの生活破綻者だ。この世とうまく折り合いがつかない人間として生を受けた。彼が生きていくことに絶望し、自殺を繰り返していったのは、もしかすると宿命かも知れない。
そんな人間がお見合い結婚をし、二度と家庭を破壊しないと、誓約書まで書かされた。しかも、時は戦争真っ最中で、太宰は命がけで家族を守らなければならない。
(p.239)

*1:たんびは

*2:明治10年西南戦争西郷隆盛との戦いの時、乃木は敗走して軍旗を敵に取られる。切腹しようとしたが、天皇が「死ぬなら私が死んでからにしろ」と止めた

*3:つぼうちしょうよう

*4:第一次世界大戦後の世界恐慌の時代