Op.ローズダスト(下)

Op.(オペレーション)ローズダスト〈下〉 (文春文庫)
Op.(オペレーション)ローズダスト〈下〉 (文春文庫)
文藝春秋 2009-02
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あんたにはわからないだろうな。あんたたちのいう国家強化計画は、所詮懐古論だ。戦後日本の恩恵をまるまる被って来た世代が、行き詰まった腹いせにリセットってわめいてるだけだ。西洋文明の欠点をあげつらいながら、自分自身が西洋的合理主義で塩漬けにされてる。あんたに変えられるものなんてなにもない。覇権闘争の種をばらまいて、世界をさらに混乱させるだけだ。
(p.29)

グローバリズムは共通の言語体系であって、話の中身を決定するのはその国のローカリズム。それを忘れた人と話をしても、その国の真相は見えてこないでしょう?
(p.59)

個人の感情が国や組織を動かすことはないが、個人がいなければ国も組織も成り立たず、個から発する人間的応答が自体に突破口を見いだし、巨大なシステムの潤滑油になることもある。それを活かす柔軟性がシステムから失われているのなら、個人が徹底的に踏ん張ってみせるしかない。
(p.60)

そう、いまの日本に「国を挙げての大事」なんて存在しない。人類の発展より老後の保障を求め、科学の進歩より些末な不便の解消を求めて、文化も技術もマイナーチェンジを繰り返すだけの社会に、全体の利益などはあり得ない。不況になれば国の無策を嘆き、安全が脅かされれば主権を叫びながら、国家という全体の利益を考える頭は持てず、結局は一億分の一である自らの幸不幸に終始する。主義も思想も、共通の目的も持ち得ない感情論の塊であるがゆえに、古い言葉で用意に社会が操作されてしまう時代。そこには"生活の大事"はあっても"国家の大事"は存在し得ない。
(p.105)

貴様達がどんな絶望を味わったのかは知る由もないが、その気分はわからないでもない。自制を学び、鍛錬を友とし、自らを国家の道具として洗練させた果てには、必ずその国家の不実との直面が待っている。その絶望を腹に収め、適度に思想を麻痺させて国家の側につく何者かと、腹に収めきれなくなった何者かがこうして向き合っているというわけだ。名前などどうでもいい。どちらも同じくらい愚かで、哀れで無明な何者か。それで十分だ。
(p.147)

混合が進み、不安定の極に達した液体が、より安定した状態の別の物質--気体に生まれ変わり、膨大な熱と高圧を発生させるまで15分。テルミット焼夷薬と、その破壊力を倍加、二乗させる二種類の液体からなるTPexは、その瞬間から起爆臨界に至るまカウントダウンを開始した。(中略) 混合による化学反応で微量の熱を帯び、超波長の電磁波を輻射し始めた。
(p.177)

無名の他者を人間と捉えられない想像力の欠如、何事も合理で量る感性の摩耗が人を殺す。
(p.237)