生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平

生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平
生命の持ち時間は決まっているのか―「使い捨ての体」老化理論が開く希望の地平Tom Kirkwood 小沢 元彦

三交社 2002-06
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おすすめ平均 star
star科学的な読み物としておもしろいです。
star学問としての老化とは?

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公衆衛生、住宅事情、医療、教育の向上により、われわれの平均余命は大幅に延び、多くの人々が寿命をまっとうできるようになった。この成功の対価として―間違えては行けない。これは「失敗」ではなく「成功」なのだ―、われわれは今日、老化という困難な問題に直面している。
(p.3)

  • 長く生きる事ができるようになった、それ自体は素晴らしい事だということを忘れてはならない。いままでは個体が限界に達する前に自然界で死んでた。

宿命論とは、「存在するものはすべて滅びる運命にある」と信じ、老いも死も自然の道理として受け入れようとする態度であり、基本的には間違った思想ではない。けれどもこれが極端になると、回避しようと思えばできるような自体にも、安易に屈服するようになってしまう。
(p.34)

  • ここのバランスが...。どこまであがくか。

何を基準に判断すれば良いのだろう?結論だけ言えば、あなたが信じる基準に従えばそれでよいのだ。物事の価値は、対象ではなく、判断をする人の目に宿っているものであり、反論の余地のない正しい答えなど、どこにもないからだ。大切なのは、自分がどんな基準で価値判断しているかを意識し、どうしてそう考えるのかと自問自答することなのだ。
(p.42)

  • 絶対的な正しさなどない。自分で判断する。ただし、その判断の理由をきちんと考えていること、というところか

老化の定義(by ジョン・メイナード・スミス)
「老化とは、心身機能の進行性の衰退をもたらし、結果として死の危険を増大させるような現象である」
(p.50,改変)

  • 老化それ自体は、生物的に必須のものではない。

われわれは今や、「なぜ老化するのか」という問いに対して、かなりの確信を持って答える事ができる。
第一に、遺伝子が身体を使い捨てにするからである。生物は、たとえ老化しなかったとしても、いつかは事故や病気や飢餓によって死んでしまう。投資さえすればいくらでも良い状態に身体を保てるが、大半の個体は若いうちに死んでしまうのだから、永遠に若いままでいられるようなレベルの投資をするのは無駄である。それよりは、維持のための投資をほどほどに抑えて、繁殖のための投資を増やした方が良い。だからこそ、われわれの生殖細胞は、もとを辿れば最初の生命に到達するほど手厚く保護され、体細胞は、野生状態での平均寿命を生きられる程度しか保護されない(つまり、使い捨てにされる)のだ。
第二に、年をとってから不利益をもたらす遺伝子でも、若いうちに利益をもたらす場合には、自然淘汰を勝ち抜きやすいからである。
第三に、自然淘汰の力は年をとってから不利益をもたらすような突然変異に対しては及びにくく、こうした遺伝子はゲノムに蓄積しやすいからである。
(p.117)

  • この一節にエッセンスがまとまっている。

若いうちに何も集めようとしなければ、
年をとってから何を見つけられるだろう?
(エルサレム聖書, シラの書, 25:3)

知識メモなど

かつての老化理論
摩耗説
生きる事は摩耗すること、よって老化は不可避
    • 生物のエントロピーは必ず増大する、という前提 -> 誤り。生物は開放系であり、外部からエネルギーを取り込んでエントロピーを減らせる
プログラム説
地球上には限られた量の資源しかないため生殖を終えた個体は種の利益のために死んで若い個体に道を譲るようプログラムされている
著者の提唱する「使い捨ての身体」理論
  • 前提1.偶然によって死亡する確率がゼロではないこと
  • 前提2.生殖細胞と体細胞の区別がある事

これらの前提のもとでは、老化が自然淘汰により進化してくることが説明できる。
繁殖のための投資>個体を維持するための投資、という重要性。このバランスに傾く変異は支持される。

カロリー制限の効果

30-50%のカロリー制限を行った動物は、平均寿命と最大寿命の両方がだいたい1/3ずつ長くなった。具体的な数値は系統や制限方法によっても変わる。 また、小柄で健康。
レイモンド・パールの「生命活動速度」理論。ゾウの時間ネズミの時間。