生物と無生物のあいだ/福岡伸一(2007)
- 作者: 福岡伸一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/18
- メディア: 新書
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第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
- 「犯人」病原体探し
第2章 アンサング・ヒーロー
- DNA=遺伝物質ということを最初に提唱したエイブリー
第3章 フォー・レター・ワード
- DNAは4文字から成る情報。
第4章 シャルガフのパズル
- DNAの構造と、増え方。
第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
- PCRを発明したマリス
第6章 ダークサイド・オブ・DNA
- ピアレビューのグレー面
第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ
- ワトソン・クリックが二重らせんにたどりつくまで
第8章 原子が秩序を生み出すとき
- 原子はランダム、生命は秩序ある存在。シュレディンガーの問題提起
第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
- 生命とは動的平衡にある流れである
第10章 タンパク質のかすかな口づけ
第11章 内部の内部は外部である
第12章 細胞膜のダイナミズム
第13章 膜にかたちを与えるもの
- 11-13章: 小胞体、細胞膜、そしてそれらの中核をなすタンパク質についての著者の研究
第14章 数・タイミング・ノックアウト
- 遺伝子をノックアウトしても身体がノックアウトされない
第15章 時間という名の解けない折り紙
- 動的平衡の適応力、柔軟性
フレーズ
p.56
むしろ直感は研究の現場では負に作用する。これはこうに違いない!という直感は、多くの場合、潜在的なバイアスや単純な図式化の産物であり、それは自然界の本来のあり方とは離れていたり異なっていたりしている。
p.84
助手に採用されるということはアカデミアの塔をのぼるはしごに足をかけることであると同時に、ヒエラルキーに取り込まれるということでもある。アカデミアは外からは輝ける塔に見えるかもしれないが、実際は暗く隠微なたこつぼ以外のなにものでもない
p.86
やがて、最も長けてくるのは、いかに仕事を精力的に行っているかを世間に示すすべである。仕事は円熟期を迎える。皆が賞賛を惜しまない。鳥は実に優雅に羽ばたいているように見える。しかしそのとき、鳥はすでに死んでいるのだ。鳥の中で情熱はすっかり燃え尽きているのである。
p.147
生命は、物理学的な枠組みの中に自らをしたがわせつつも、その熱運動に身をゆだねているわけではなく、そこから複雑な秩序を生み出しているのである。
p.163
私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかない。
p.164 by シェーンハイマー
生物が生きている限り、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。
p.166-167
秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。
(...中略...)
つまり、エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組みを流れの中に置くことなのである。
p.167
生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れである。
p.181
システムの内部に不可逆的に蓄積するエントロピーに抗するには、先回りしてそれを壊し排出するしかない。
p.274-248
それは神の悪戯とでもいうべき奇怪なものだった。腫瘍は普通、個性のない、ただ増殖するだけが目的の細胞塊であるはずなのに(...中略...)、つまりその腫瘍はあらゆるタイプの細胞のごたまぜ状態を呈していたのである。
(...中略...)
この時点では、まだ始原細胞という言葉を使っていた。しかし彼(スティーブンス)の洞察は正鵠を得ていたのだ。129系マウスの分化プログラム時計には、数とタイミングに関する”ずれ”が内包されていたのである。
p.248-249
1980年代初め、(...中略...)129系マウスの胚から幹細胞を取り出すことに成功した。
(...中略...)
これが、胚性幹細胞(embryonic stem cell)樹立の瞬間だった。このES細胞は数とタイミングに関して、本来、生命のプログラムが持っている、時間軸に対する待ったなしの一方向性から免れた希有の性質を有していた。
p.272
何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。動的な平衡が持つ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきなのだ。
結局、私たちが明らかに出来たことは、生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性だったのである。
用語
- C2空間群
- 二つの構成単位が互いに逆方向をとって点対称に配置されたとき成立する。
- ドミナント・ネガティブ現象
- タンパク質分子の部分的な欠落や局所的な改変の方が、分子全体の欠落よりも優位に害作用を与える。生命という系固有の現象
- 密度勾配遠心分離法
- 遠心機は、ローターのサイズ、回転数(一分間に数百回から数万回転までがかけられる)、回転時間などが自由に設定できるようになっている。また試験管内に細胞成分とともに入れる溶液の種類も変えることが出来る(密度の高い溶液を使うとその分、細胞成分は沈みにくくなり、よりきめ細かい分離が可能となる)。この諸条件の組合せによって雑多な細胞内成分の中から目的とする特定の成分だけを純化することが可能となる。