1984年

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)ジョージ・オーウェル 高橋和久

早川書房 2009-07-18
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おすすめ平均 star
starおそらく20世紀の最高傑作
star訳者によると英国での「読んだふり本」第一位らしい…
star有り得た未来

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おまえは既に死んでいる、と彼は自分に言い聞かせた。決定的な一歩を踏み出したのは、自らの思考を明確に練り上げることができるようになった今なのだという気がした。あらゆる行為の結果はその行為の中に含まれている。

過去は現在の情況に合致するように変えられる。このようにして、党の発表した予言は例外なく文書記録によって正しかったことが示され得るのであり、また、どんな報道記事も論説も、現下の必要と矛盾する場合には、記録に残されることは決して許されない。

「常に陽気に振る舞い、どんな仕事も嫌がらずに引き受ける。いつでもみんなに合わせて大声で叫ぶ。それがわたしのやり方、身を守る唯一の方法よ」

その本は彼を魅了した。いや、より正確に言えば、彼を安心させた。ある意味では、何ら新しいことを教えられるわけではないのだが、しかしそれも惹きつけられた一因だった。その本は、もしばらばらの思考を自分できちんと秩序立てることが出来るなら、自分の言いたかったことを言ってくれているのだ。これは自分と同じような精神、しかもはるかに強靱であり、ずっと論理的で、恐怖に怯えてなどいない精神が生み出したものなのだ。最上の書物とは、読者の既に知っていることを教えてくれるものなのだ、と彼は思った。

この3つのグループそれぞれの目的は、全く相容れない。上層の目的は現状を維持することである。中間層の目的は上層と入れ替わること。下層の目的は -- もし彼らが目的を持っていたとしての話だが -- というのも、彼等は単調な労働によって過度なまでに虐げられているので、日常生活以外の事象はごくまれにしか意識しないというのが、昔から変わらぬ特性であるからだが -- あらゆる差別を撤廃し、万人が平等である世界を創り出すことである。

過去は変わりやすいというのが、イングソックの中心的な教義である。過去の出来事は客観的実態を持たず、書かれた記録と人間の記憶の中にのみ存在していると主張されている。記録と記憶が一致したものであれば何であれ、それがすなわち過去である。

一方に真実があり、他方に出鱈目がある。もしせかいを敵に回しても真実を手放さないのなら、その人間は狂っていないのだ。(略) 「正気かどうかは統計上の問題ではない」この言葉には深遠な叡智が含まれているような気がした。

「どうしようもないじゃないですか」彼は泣きながら言った。「目の前に見えるものを消しようがありません。2足す2は4です」
「ときには、ウィンストン、ときにはだが、それが5になることもあるのだよ。3になるときもある。4と5と3に同時になる場合だってある。君はもっと真剣に頑張らないといけない。正気になるのは難しいのだ」