Op.ローズダスト(上)


Op.(オペレーション)ローズダスト〈上〉 (文春文庫)
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文藝春秋 2009-02
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非公開情報機関ダイス: DAIS(Defense Agency Information Service)

消耗だけを強いられた以前の仕事ではあったが、ひとつ重要な教訓を学ぶことはできた。それは、この世界に通用するルールはただ一つ、ルールなど存在しないのだということ。社会が道義的であったためしはなく、国際政治のルールは力を持つも者の手で節操なく書き換えられる。辻褄の合わないことが当たり前の世界で平衡感覚を保つには、自分の規定したルールに従って行動するよりない。
(p.23)

有名無実に終わった平壌宣言から4年、細々と続いて来た日朝外交ルートは核実験開始宣言で完全に断たれた。六ヶ国協議の合意にも背を向けた今、あの国にはもう後がない
(p.80)

左翼とは、すなわち社会・共産主義マルクスが提唱した理論...乱暴にまとめてしまえば、富を公平に分配して貧富の差をなくそうという考え方ですが、これを元に革命を起こし、現在の資本主義社会を変革しようと言うものです。世界においては、かつてのソ連や中国がこちらの部類に属し、一時は東陣営と呼ばれる勢力圏を形成していました。(中略)
対して右翼とは、単純なようでいてちょっと複雑です。もともとは我が国の歴史と伝統を重んじ、天皇中心の国家形成を目標とする思想ですが、戦後の日本ではこれに反共産主義、現体制の擁護という方向性が重視されて、急進著しい左翼勢力のカウンターとして育って来た経緯がある。現体制とは、「アメリカの核の傘の下で国を建て直すのが国家百年の計」であるとする、終戦を契機に生まれた戦後保守思想(中略)、戦後日本に君臨し続けて来た某与党が体現する勢力と言ってもまぁ間違いではないでしょう。つまり戦後右翼、特に行動右翼と呼ばれる層は、ナショナリズムを標榜する一方で、きわめて親アメリカ的な存在であった訳です。(中略)

左翼イコール社会・共産主義、これは違います。右翼的であることが親米保守と繋がるのも日本だけの話です。左翼という言葉の本当の意味は、近代主義と総称される観念...自由、平等、博愛という、フランス革命の理念に代表される抽象的な観念に基づいて、人間の生活や国家制度の革新を図る勢力のことを指します。
右翼とは、これに対してあくまでも旧来の価値間や伝統を重んじ、保守的な姿勢を撮り続けることをさすのです。
(p.93-97)

連中は確かに俺たちと違う常識を生きているが、バカじゃない。平壌宣言とセットで拉致被害者を帰国させたのだって、9.11以来の世界情勢を素早く読んでの行動だろ? 拉致被害者の何人かも返せば、日本は見返りに経済援助を寄越す。強硬一辺倒になったアメリカに対して、緩衝剤の役にも立つってな。ところが現実は、拉致被害者の帰国で日本の世論が燃え上がっちまった。米朝関係の改善もオジャン。そもそも日本には、米朝関係を取り持つだけの外交手腕がなかった。そうなると今度は核不拡散条約(NPT)脱退を皮切りに、原子炉再稼働、核保有宣言。日本の頭ごしに、アメリカ相手のチキンレースをおっ始めた
(p.124)

もはや処置なしだった。「この野郎!」と怒号が発し、殺気立った足音が水たまりを蹴散らして朋希を取り囲む。朋希は軽く拳を握ってそれらに対し、泥まみれの身体を起こした主任と木下も、こうなったらけじめは取るという顔で朋希との間合いを測る。「よせ...」と発しかけた並河の声は、体と体がぶつかり合う音、水たまりが跳ねる音にかき消され、三人目の係員が床に転がされたのを合図に、乱闘の幕は切って落とされた。
(p.131)

コンピュータ機器の発達がもたらした軍事革命(RNA)...湾岸戦争で明らかになった新しい戦争の態様は、もはや旧来の意味における戦場の形成を否定しています。これからは精密誘導兵器による拠点攻撃、少数精鋭部隊による情報収集とゲリラ活動が戦闘の中核になります。
(p.219)

腹切り場、ここより後ろには退がれない最終防衛戦。そんなものが本当にあるのなら、ぼくはもう何度も腹を切っていなけりゃならない。打ちのめされるたびに最終防衛戦を後退させ、少なくなって行く選択肢の中からマシなものを選んで、期待も希望も抱かずに生き続ける。そういう生き方だって人にはできる。狡くても、卑しくても、それが人間ってものなんだ。
(p.238)

よりわかりやすく、より過激に。わかりやすさは事物を単純化し、過激さは「不安」や「危機」を最良の調味料にして、ニュースのエンターテイメント化を推進する。庶民感情--テレビ局の言うそれは視聴率という数字だが--に則った報道番組作りかなにか知らないが、少なくともこれはまともな大人の見るものではない。テレビの性能は日進月歩なのに、映る番組が白痴化一方というのは嘆かわしい話ではないか?
(p.296)

こんなことをしている場合ではないと思いながらも、クッキーはさくさくと歯ごたえがよく、じんわり身体を温める紅茶ともども、この半日の鬱屈を溶かして流すような甘さが減じるものではなかった。
(p.399)

データベースへの侵入を果たしたウィルスは、手始めに膨大な顧客リストに触手をのばし、自立プログラムに従って自己の複製に取りかかった。複製はリストに記録されたアドレスの数だけ作られ、Eメールに粉飾されると、すべてのアドレスに向けて送信された。ダイナソーが発信するメールマガジンとして送り出されたそれは、百万単位に上る一般ユーザーのパソコンに取り付き、パソコンのアプリケーションが文書を読み込むや否や、テンプレート・ファイルに感染して潜伏した。
(p.427)

  • システムの動作の記述。